しずめの遭難日記
ズボッ!
今まで硬かった雪の斜面が急に柔らかくなり、進んだ足がズブズブと雪に沈んで行く。「しまった」と思った時にはすでに遅かった。
そこは、崖の縁に雪がたまっていただけで、地面がなかったのだ。しかし、今頃そんな事に気がついても、もう遅い。重心が沈んだ足へとかけられた私の体はそのまま滑り落ちる雪の中へと呑み込まれていく。雪屁だ。雪屁とは、雪が山稜の風下にひさしのように張り出して積もった場所の事だ。ここを踏み抜くと下には何もない。
「しずめちゃんッ>」
私の異変に気付いた女が、叫び声を上げて私に手を差し伸べた。私は女の差し伸べた手を必死に掴んだ。………そして、私は目の前が真っ暗になった。
「……ちゃん………ずめちゃん………しずめ………ちゃん」
それは、優しい声だった。久しく聞いていない母の声。温かく、私を包み込んでくれるような…。そんな、微睡むような心地よい声。私は死んでしまったのだろうか?死んでしまったから、母の声が聞こえるのだろうか?きっとそうだ。そうに違いない。私はそう思い、優しいその声に返事をした。
「………お母さん?」
「なぁに?」
私の問いかけに、その声は優しく声を返してくれた。やっぱり、これは母なのだ。私は母の側にいるのだ。
「お母さん。私ね、嫌な夢を見ていたの。変な女がね、私からお父さんや、お母さんが大切にしてた物を奪っていくの。私は必死に守るんだけど、でも、もう限界なの。あぁ…でもよかったぁ。お母さんはここにいたんだね?お母さん………」
私がそう言って母に抱きつくと、母はそんな私の頭を撫でてくれた。
今まで硬かった雪の斜面が急に柔らかくなり、進んだ足がズブズブと雪に沈んで行く。「しまった」と思った時にはすでに遅かった。
そこは、崖の縁に雪がたまっていただけで、地面がなかったのだ。しかし、今頃そんな事に気がついても、もう遅い。重心が沈んだ足へとかけられた私の体はそのまま滑り落ちる雪の中へと呑み込まれていく。雪屁だ。雪屁とは、雪が山稜の風下にひさしのように張り出して積もった場所の事だ。ここを踏み抜くと下には何もない。
「しずめちゃんッ>」
私の異変に気付いた女が、叫び声を上げて私に手を差し伸べた。私は女の差し伸べた手を必死に掴んだ。………そして、私は目の前が真っ暗になった。
「……ちゃん………ずめちゃん………しずめ………ちゃん」
それは、優しい声だった。久しく聞いていない母の声。温かく、私を包み込んでくれるような…。そんな、微睡むような心地よい声。私は死んでしまったのだろうか?死んでしまったから、母の声が聞こえるのだろうか?きっとそうだ。そうに違いない。私はそう思い、優しいその声に返事をした。
「………お母さん?」
「なぁに?」
私の問いかけに、その声は優しく声を返してくれた。やっぱり、これは母なのだ。私は母の側にいるのだ。
「お母さん。私ね、嫌な夢を見ていたの。変な女がね、私からお父さんや、お母さんが大切にしてた物を奪っていくの。私は必死に守るんだけど、でも、もう限界なの。あぁ…でもよかったぁ。お母さんはここにいたんだね?お母さん………」
私がそう言って母に抱きつくと、母はそんな私の頭を撫でてくれた。