しずめの遭難日記
「鍛治さん、素敵です!では、後はバースディ・ケーキだけですね?う~ん、蝋燭は非常用の物がありますのでコレを使わせてもらって、ケーキは…………」
 女はリュックの中を覗き込み、何か使えそう物がないかとくまなく探したが、ケーキの代用がききそうな物は何も見つからなかった。
 それでも、女はリュックから幾つか取り出すと、足を引きずるようにして洞窟の入り口の方へと歩いて行く。しばらくすると、女はバケツにいっぱいの雪を抱えて再び洞窟内へと帰って来た。
 私は、今から何が始めるのかと、女の動向をジッと見ていると、女はテーブル代わりに使っていた岩の上にバケツの雪をひっくり返す。そして、釣り糸で雪を三分の一の辺りで切ると、切った上側の雪をまたバケツへと戻す。そして、バケツに戻した雪を手で形をつけて、先ほど切った雪の台へと乗せていった。最後に非常用の蝋燭と、上にコーヒー用のスティックシュガーを振りかけると、女は嬉しそうな笑顔を作って「完成♪」とはしゃいでいた。
「まさか………」
 私は女が笑顔で見つめるその物体を見て愕然とした。
「しずめちゃん。お誕生日おめでとう!」
 女はそう言うと、笑顔で雪で作ったバースディ・ケーキに蝋燭を立て、火を灯した。
「しずめ。誕生日おめでとう!」
 父も女に習って、私におめでとうを言って、用意してきたプレゼントを私に渡す。
 それは、私が前から欲しがっていたテディベアのヌイグルミだった。
 プレゼントを受け取ると、次は蝋燭を吹き消す番だ。
 私は、雪で作ったバースディ・ケーキなんて許せなかったが、この場は雰囲気だ。それに、非常用の蝋燭が燃え尽きてしまっては困るという事もあり、私は灯された二本の蝋燭の火を吹き消した。
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