しずめの遭難日記
「野上隊長!こちらに洞穴のようなものがあります!」
 不意に、周囲を捜索に当たっていた隊員の一人がそれらしき洞窟を見つけ、野上に報告してきた。野上は呼ばれるままに、隊員が見つけたという洞窟のほうへ走ってみたが、そこにあるのは白銀の雪で覆われた白い斜面だけだった。
「スコップを貸せ!」
 野上がそう言うと、控えていた隊員が野上に緊急用のスコップを野上に手渡す。野上はスコップを受け取ると、そのまま力任せに白い雪の斜面に突き立てた。
 サクッ!という軽快な音と共に、野上の握るスコップが雪中深くに突き刺さる。長年山岳警備隊に務めている野上にはわかっていたのだ。隊員が見つけたその真っ新な雪の板の下には大きな空洞が空いているであろうことを…。野上の握るスコップが、こうも容易く雪の板に吸い込まれて行くのは、ごく最近この辺りに雪崩が起き、地表を覆ったのだということを現している。
 野上は嫌な予感を覚え、眉間に皺を寄せた。もし、野上が考えたとおり、ごく最近にこの辺りで雪崩が起きていたとして、この下に眠るであろう洞穴の入り口を塞いだのだとしたら、洞穴の中は完全な密封状態という事になる。吹雪の中、運良くこの洞穴を見つけ身を潜めていたとしても、おそらくは………。
 野上は、そんな自分の脳裏に過ぎった不快な予感を振り払うかのように一心にスコップで積もる雪を掻き分けた。
 隊員総出で作業にかかり三十分ほどした時、雪の扉はやっと、その重い口を開けた。
 洞穴の中は、雪で太陽の光が遮られているため真っ暗だった。
「おーい!助けにきたぞ!誰かいるなら返事しろ!」
 野上は、ぽっかり空いた洞穴の穴に向かって叫んだが、返ってくるのは洞穴内で反響した自分の木霊だけだった。
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