しずめの遭難日記
野上達は洞穴を覆っている雪を更に退けると、今度は声だけではなく、自分自らが洞穴の中に入り、新野一家の行方を知る手がかりになるようなモノはないかと探ってみることにした。
 洞穴の中は意外に広く、吹雪をしのぐには格好の場所だ。新野一家の最後の遭難信号が発信された場所がここから近い以上、新野一家がこの洞穴に立ち寄った可能性は高い。野上は、暗く奥まで続く洞穴を懐中電灯で照らす。
「隊長………」 
 隊員の一人が、何かを見つけ野上にも分かるように懐中電灯で照らす。それは、登山用のリュックサックと、大小3つの寝袋だった。
 野上は確信した。おそらくそれらの登山用品は新野一家の物だろう。
 野上は急いで寝袋を調べたが、寝袋の中に人が入っている様子はなかった。また、洞穴内をくまなく捜査したが、その洞穴のどこにも、新野一家の姿はなかった。
「隊長…新野一家は下山しようとしてそのまま…」
 洞穴のどこを探してもいない新野一家に対して、隊員の一人が最悪の予想を野上に提示する。
「…いや、野上一家の主、野上 鍛治は登山歴何十年のベテラン登山家だ。吹雪の中、安全も確認できないのに下山するようなおろかなマネはしないだろう。しかし、念には念だ。一応周囲の捜索も引き続き行う」
 野上はそう言うと、洞穴の捜索に隊員を一人残し、自分は他の隊員と共に、辺りを捜索してみたが、やはり、新野一家の姿は見つからなかった。
 やがて、周辺の捜査も終わり、今日の捜索の打ち切りが告げられた時、一人の隊員が、野上の所へやってきた。その隊員は、野上が洞穴の捜索にと、一人残して置いた隊員だった。
「隊長………こんなものが………」
 隊員は、一つの分厚い本の様な物を手渡すと、何とも言えない顔で、野上を見つめた。
「ん?なんだ?登山記録か?……子供の字だな………」 
 隊員から手渡された分厚い本は、表面が皮製のカバーで出来ているしっかりとした造りの本で、表書きに『DIARY』と銘打ってある。ヒョイと裏を返せば、『新野 しずめ』とマジックで書いた手書きの名前が読みとれた。
 野上は、それが新野一家の行方の手がかりになるのでは?と考え、その分厚い日記帳を開いてみた。
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