しずめの遭難日記
エピローグ
 日記はそこで終わっていた。
 野上の手は震えていた。この日記の最後の日付は、三月三日になっている。その日は、朝方僅かに天候が回復したが、それは正に嵐の前の静けさにすぎず、すぐにまたより激しい猛吹雪が吹き荒れたのである。子供の足で、しかも土地勘もなく、吹雪に見舞われては、その生存確率は限りなく0に近いと言わざるをえなかった。
「………隊長」
 日記を渡した隊員が、震える野上を心配して声をかける。
「お前等!ここいら一帯をくまなく探せ!髪の毛一筋でも見失うなよッ!」
 野上は、それから可能な限りの範囲を、新野一家を探して回ったが、とうとう新野一家の誰一人として見つける事ができなかった。野上達が発見できたのは、雪道で、血がついた新野 鍛治の物と思われるビーコンと、女物らしい衣服の切れ端、そして、少女のこの日記だけだった。
 野上はそれでも諦めきれず、月を重ねて、捜査が打ち切りになった後も何度も新野一家の行方を探したが、新野一家の遺体はおろか遺留品さえ、何も見つからなかった。
 新野一家は、白い美しい悪魔に魅入られてしまったのだ。
 野上は、初夏に入っても尚、頭に白い頂きを宿す山を見上げた。
 この場所に、確かに新野一家はいたのだ。そして、懸命に生きようとしてた事を、野上は知っている。
 その日から、野上はずっと新野一家を探している。今年も、そして来年も…。
 しかし、新野一家は今も尚、この白い美しい悪魔に抱かれたまま、二度と見つかる事はなかった…。


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