世紀末の恋の色は
赤い瞳の男は、彼の書斎と思われる部屋で数枚の書類に目を通していた。

服装は先程雪道を歩いていた格好そのままで、暖炉の火がルビーの赤の瞳を、あたかも本物の輝石であるかのようにちらりちらりと照らしている。

そのすぐ脇には、白髪碧目の青年が控えていた。

年は赤目の男よりも若いくらいだろうか、何もないのに楽しそうな表情を浮かべている。

彼らは暫くの間一言も発さなかった。

ぱちりぱちりと薪の弾ける音と、窓を叩く夜風、そして時折白髪の青年が暖炉に薪を補充する音が満ちるばかりである。

やがて何度目か青年が赤々と燃える炎に薪を放り込んだ時、その炎よりも赤い瞳が青年に向けられた。


「セシル、迎えてやれ」


御意、とセシルと呼ばれた青年は笑いながら腰を折ると、廊下に繋がるドアを丁重に開く。

そこには、セシルが出したドレスに身を包んだレナが所在なさげに立っていた。


「アルフレートがお待ちですよ、どうぞ……レナ様」

「あ、りがとう……」


丁寧すぎるセシルに、レナは困惑したような表情を浮かべる。

ちらりと一瞥をくれ、赤目の彼は紙に目を落としながら口を開いた。


「身体は温まったか」

「はい……あの、ありがとうございます、アルフレートさんに、セシルさん……」


先程の態度とは随分と違う、とアルフレートは思う。

まあ、強がりを解いてしまえばそんなものなのかもしれないが。

彼の目に映るレナはまだ十七、八の子供のようにしか見えなかった。


「アルフと呼び捨てで構わない、セシルもそれでいい」


レナは手元に視線を落としたままのアルフレートを見つめた。

ためらうよう目を動かし、にこやかに笑ったままのセシルを見、それから漸く頷く。


「はい……アルフにセシル」


消え入りそうな声にやはりセシルは楽しそうな表情のままで、レナにソファを勧める。


「さ、どうぞおかけになって。
 アルフレートが考え事を終えるまで、紅茶でもいかがかな?それからお茶菓子もいろいろあるけれど、甘い物は好き?」


レナはセシルに圧倒されたように、目を白黒させながらただ首を縦に振る。



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