世紀末の恋の色は
彼女の肯定に、セシルの周囲には無数の花が飛び散った。


「それは何よりです! アルフレートはあんなのだから、どれだけ美味しいお茶菓子出しても喜んでくれないんですよ。
 準備して来ますので、少し待っていて下さいね」


喜色満面のセシルは、丁寧にお辞儀をしてから廊下に消える。

途端に、書斎は静かすぎるほど静かになる。

居心地の悪さに耐え兼ねて、レナは部屋中を見回してみた。

相変わらず調度品は最低限の物しかないが、一つ一つが年代物の存在感を放っている。

本棚には大小様々の本が隙間なく納められ、幾つかは背表紙にすら豪華な装幀が施されており、どれだけ値が張るのか分からない。

窓はやはり分厚いカーテンが覆っていたが、白い壁には絵が一枚掲げられていた。

古い物のようで、絵の具の色は褪せている。

しかし、よく見てみれば、描かれている人物はアルフレートに似ていた。

もしかすると、アルフのご先祖様だろうか。

ただそれにしては目の色が……とレナがアルフレートに目を向けた瞬間、赤い瞳がその視線を受け止める。

既に彼は考え事とやらを終えていたらしい。


「お前に聞きたいことがある」


思わず聞いている者が背筋を伸ばしてしまうほど、威圧感のある声。

外見は大した年でもない、しかしその圧力は千年を越えた巖の如く。

レナの沈黙を意に介さず、アルフレートは彼女に問う。


「吸血鬼がお前の村を脅かすのは、いつ頃からだ?」

「知らないわ……少なくとも私の親達が物心ついた時には現れていたらしいけれど」


三十年以上は昔の話になる。

一瞬アルフレートは赤い瞳を思案げに伏せた。

何事か呟き、その後に再びレナの蒼い眼を捕らえ、問う。


「現れていた……か。
 ならば、力と恐怖にものを言わせるようになったのは、つい最近のことか?」


今度はレナが目を宙に彷徨わせる。


「そう、かな。
 私が小さい頃は、村はあんな雰囲気じゃなかったと思う。吸血鬼も、人を殺すことはなかった」


つまり、今は人を殺すと言うことか。

そう思いながら、アルフレートは赤い瞳を閉じて腕を組む。

その様は優雅で隙がない。


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