世紀末の恋の色は
その凍り付いたような表情がおかしくて、アルフレートは少しばかり唇を吊り上げる。


「夜風は怖いわ、雷は怖いわ……どうやら本当に怖がりの泣き虫らしい」

「だっ、て」


錆び付いたような舌の動きから、レナはアルフレートに食ってかかった。


「だって普通冬に雷なんて鳴らないじゃない! しかも何の予兆もなく落ちるはずがないでしょ!?
 絶対に、何か悪いことが……」

「だが、風は止んだ」


ぱち、と目を瞬かせて、それからレナは耳を澄ましてみる。

アルフレートが窓を開け放っても、凪いだ冷たい風が穏やかにカーテンをなびかせるのみ。

吸血鬼の羽音が荒れ狂うような夜風は鳴りを潜め、静かな夜が訪れていた。


「……今宵も月が美しい」


赤い瞳を夜空に向けて、アルフレートは穏やかな声でひとりごちた。

彼の姿があまりにも絵になり過ぎて、レナはアルフレートに気付かれないように息を飲む。

月明りに包まれた艶やかな黒髪、輝石よりなお輝かしい赤の瞳。

高い上背に引き締まった身体、前髪を払う指は細く繊細で。

まじまじと見る余裕もなかったけれど……立ち姿に見惚れたままレナは思う。

物凄く綺麗な人。

かっと頬が熱くなるのを感じて、レナは慌てて視線を膝に落とした。

その機会を見計らったように、重い扉が丁重にノックされ、相変わらず喜色満面のセシルが紅茶と大量のお菓子と共に一礼をする。



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