世紀末の恋の色は
「ああ、レナ様! どうなされました?」


レナが廊下に足を踏み出してすぐに、セシルが向かい側からやって来た。

別段何もないというのに、浮かべる表情は楽しげで、周りに花が散っている。


「いえ……何か窮屈だから。少し散歩でもしようかと思って」

「それじゃあ僕も一緒に行きますよ、レナ様お一人では多分迷われてしまいますから」


にこり、とセシルは微笑する。

男性にしては長めの白髪に、レナの蒼とはまた違う色の碧い瞳。

内陸の雪国育ちの彼女はその色を例える術を知らなかったが、もし南国の島国育ちの者が彼の瞳を見れば、海のようだと言っただろう。

人懐こい表情を常に浮かべる彼の顔の造形はこれまた整っていて、微笑いかけられればレナはセシルを拒むことが出来なくなってしまう。


「だけど、セシルはアルフに付いていないといけないんじゃないの?」


ふとレナの心に浮かんだ疑問。

アルフのいる所にはいつもセシルがいる。

食事の給仕も、暖炉の火を守るのも、全て彼の仕事だった。

そんなセシルがレナに付き合っている暇があるのか、と。

あはは、とセシルは笑う。


「大丈夫ですよ、アルフレートは大抵の昼間は出かけていますから」


だから行きましょう、裏手の森にとても素敵な場所がありますから、と促され、レナはおずおずと彼の後ろに付き従う。

長い廊下には無数の扉がある。

セシルはそれらに目もくれない。

正直レナはそれの一つ一つが気になって堪らないが、セシルは立ち止まらなかった。

とうとう、レナは興味を押さえ切れなくなって、セシルの背中に声を掛ける。


「あの、セシル……」

「はい、どうなさいました?」


彼はにこやかな表情で振り返る。


「ええと、その……たくさん部屋があるみたいだけれど」


一体何があるのかと問う前に、セシルは舌が絡まないのが不思議なくらいの勢いで説明を始めた。


「ああ、このあたりの部屋はみんなレナ様がいらっしゃるようなお部屋ですが、掃除の手も行き届かないので埃を被っているのですよ。
 中にはアルフレートの物置になっている部屋もありますけどね」



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