世紀末の恋の色は

第四章

はや日は落ちかけ、分厚い雲に隠れた夕陽はおそらく山の彼方へ隠れつつあった。

宵闇の気配が迫る森で、レナは嬉しそうにセシルと話している。


「まさかお屋敷の裏手に温泉が湧いてるなんて思わなかった!」

「良い所でしたでしょう?
 夏場なら着替えを持って行っても良いんですけどねえ……」


冬場ではおそらく、一度温かい湯に浸かってしまったが最後、外の寒さに出られなくなってしまうに違いない。


「うん……夏だったら良かったのに」


レナが俯くのは、彼女の未来が全く見通せないから。

セシルと二人で過ごしていたからこそ忘れられていたが、これからどうなってしまうのか彼女にも分からないのだ。

吸血鬼に見つけられたらどうすればよいのか、花嫁が消えて村はどうなっているのか。

そして、アルフレートが自分の身を保護している理由さえも分からない。

ふ、と表情を陰らせてしまったレナに、セシルが慌てて話しかける。


「あ、ほらレナ様、あちらに広い街があるんですよ。
 そろそろ食材なんかを買いに行かないといけませんから、今度一緒に行きませんか?」


セシルが指差したのは低い丘の向こう側。

街、という言葉にレナは首を傾げる。


「だけどだいぶ遠いんじゃないの?」


彼女の記憶では最寄りの街までは半日かかって行ったものだったが。


「それがそうでもないんですよ。レナ様の村があちら、街はこちら。
 このお屋敷からはどちらも良い道を通って行けますから、長くても時計の長針が一周する頃には着けるんです」


レナはセシルが指差した村の方を見つめる。

彼女のことを見捨てた村であろうと、生まれ育った場所に違いないから。

……遠くから、眺めるくらいなら。

湧き上がる衝動を押さえ込んで、レナはセシルに目を戻した。



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