世紀末の恋の色は
『さあ、人生最後の教会だ』

『せいぜい来世が報われるよう、夜通し祈りでも捧げておくんだな』


嗚呼、これは夢だ。

そう気付いてレナは何とか目覚めようとする。

……そうでなければ、またあの怖い目に遭ってしまう。

なのに、レナの視界は何時までも切り替わらない。

がちゃん、と教会の扉に鍵が降ろされる。

頼りなく揺れる蝋燭、ぼろ切れのような毛布で身体をかき抱き、磔刑に処せられたキリストの前に跪き。


『主よ』


だが、祈りの言葉をそれ以上紡ぐことが出来ない。

神の前で恨みを呪詛を紡ぎそうになり、唇を閉ざす。

人を犠牲にして生き延びたがる奴等のために、どうして生を諦めて、救いなど請えようか。

震える両手を握り込む。

爪が掌に食い込んで、赤い赤い液体が滲み出して来る。

びゅうびゅうと雪混じりの風が吹き荒れる。

ぎしぎしと軋む教会の骨組み、崩れそうになるのは人としての理性だろうか。

……殺してやる。

もし私が人ならざるモノに変わってしまったら、この村の人間、全て。

レナが浮かべるのは既に、人ならざるモノの表情。

ステンドグラスを叩く夜風が激しさを増し、その中に、何か大きな生き物の羽音が混じる。


『良い顔をするねぇ、花嫁。気に入ったぞ』



びくり、とレナは身を竦ませる。

人里近くへ降りて来てしまった小鹿の表情で、彼女は前後左右に目を配る。

蝋燭の炎が揺れる度に踊る影。


『い、や……』


彼女の瞳に映るもの、全てが不気味な存在に見え。

ぎゅう、と瞳を閉じる。

嫌……だ。

助けて、ねえ、誰か……。



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