世紀末の恋の色は
「少しは落ち着いたか」
胸に顔を埋めたレナの泣き声が収まって来た頃、アルフレートは静かに問い掛ける。
こく、と一つ頷くレナを見て、アルフは彼女を支えていた腕を解いた。
そのまま、彼はレナに背を向ける。
「さて、泣き虫の羊はどれだけ酷い顔をしていることやら」
くつくつと笑いながら、彼はレナの方を振り向かない。
それはアルフレートなりの優しさなのかも知れなかったが、また馬鹿にされたとレナは頬を膨らます。
「貴方が想像している程不細工な顔じゃ……でもやっぱり振り向かないで」
赤い瞳の端が一瞬レナの表情を捕らえかけ、言われた通りに再び前へ戻される。
「仰せのままに」
薄く笑いを含んだままのアルフレートの芝居掛かったセリフ。
それも、次に声を投げ掛ける時にはすっかり影を潜め。
「眠れそうか」
問われ、レナは片手で胸を押さえる。
確かに恐怖は薄らいだけれど、鼓動は未だ踊ったまま。
それが聞こえた訳ではないだろうに、アルフレートはまた笑みを含んだ声で言う。
「やれやれ。仕方ないな、付いて来い」
レナが返事をする前に、アルフレートはもう歩き出している。
「ただし、怖くないなら……な」
廊下の燭台を掲げてアルフレートが選んだのは、蝋燭の灯の点らぬ方向だった。
セシル曰く、何かが出ると言う。
しかし、目の前を行くアルフレートの背中から離れたくなくて、レナは何も言わずに彼の後を追った。
低く軋む二つの足音。
アルフレートの持った燭台以外の灯はなく、それは闇をより濃く深く演出する。
踊る影に腕を引かれそうで、レナは生唾を飲み込む。
その廊下は何処まで続いて行くのか。
何処までも。
奈落の底まで続いて行きそうな通路を、アルフレートは迷いなく進んで行く。
彼は振り返ることも声を掛けてくれることもしない。
レナの不安がまた涙腺を決壊させそうになったころ、漸く彼は歩みを止めて扉の一つを開いた。
「入れ」
簡潔な命令形の口調。
アルフレートの影を見失わないように、とレナは慌てて彼の後に続いた。
.
胸に顔を埋めたレナの泣き声が収まって来た頃、アルフレートは静かに問い掛ける。
こく、と一つ頷くレナを見て、アルフは彼女を支えていた腕を解いた。
そのまま、彼はレナに背を向ける。
「さて、泣き虫の羊はどれだけ酷い顔をしていることやら」
くつくつと笑いながら、彼はレナの方を振り向かない。
それはアルフレートなりの優しさなのかも知れなかったが、また馬鹿にされたとレナは頬を膨らます。
「貴方が想像している程不細工な顔じゃ……でもやっぱり振り向かないで」
赤い瞳の端が一瞬レナの表情を捕らえかけ、言われた通りに再び前へ戻される。
「仰せのままに」
薄く笑いを含んだままのアルフレートの芝居掛かったセリフ。
それも、次に声を投げ掛ける時にはすっかり影を潜め。
「眠れそうか」
問われ、レナは片手で胸を押さえる。
確かに恐怖は薄らいだけれど、鼓動は未だ踊ったまま。
それが聞こえた訳ではないだろうに、アルフレートはまた笑みを含んだ声で言う。
「やれやれ。仕方ないな、付いて来い」
レナが返事をする前に、アルフレートはもう歩き出している。
「ただし、怖くないなら……な」
廊下の燭台を掲げてアルフレートが選んだのは、蝋燭の灯の点らぬ方向だった。
セシル曰く、何かが出ると言う。
しかし、目の前を行くアルフレートの背中から離れたくなくて、レナは何も言わずに彼の後を追った。
低く軋む二つの足音。
アルフレートの持った燭台以外の灯はなく、それは闇をより濃く深く演出する。
踊る影に腕を引かれそうで、レナは生唾を飲み込む。
その廊下は何処まで続いて行くのか。
何処までも。
奈落の底まで続いて行きそうな通路を、アルフレートは迷いなく進んで行く。
彼は振り返ることも声を掛けてくれることもしない。
レナの不安がまた涙腺を決壊させそうになったころ、漸く彼は歩みを止めて扉の一つを開いた。
「入れ」
簡潔な命令形の口調。
アルフレートの影を見失わないように、とレナは慌てて彼の後に続いた。
.