世紀末の恋の色は
そこはどうやら大して広くはない部屋のようだった。

明かりはレナの部屋にあるような一本足の丸テーブルに置かれた燭台の灯だけ。

いくら目を凝らしても、彼女では暗闇を見通すことは出来ない。


「こちらへ来い」


アルフレートはその丸テーブルとは反対側の方へ歩いて行く。

やがて、かたん、と彼が右手の燭台を置く音がして、茫とその周りが照らし出される。

サイドテーブルの両端に、向かい合うようにソファが置かれていた。


「座っていろ」

「……はい」


先程からアルフレートは必要最低限の指示しか与えない。

彼が何を考えているのか、レナには皆目検討もつかなかった。

目をあちこちに彷徨わせながら、やけに沈むソファに腰を下ろす。

頼りなく揺れる細い蝋燭の明かりの元にレナを座らせておいて、アルフレートは一人部屋の暗闇の中へ溶けて行った。

足音は遠ざかり、やがて気配も消え、レナは一人部屋に取り残されたような錯覚に陥る。

……けれど、何処かにいるアルフレートからは、おそらく光の側の彼女の姿が見えるのだ。

彼女は蒼色の、晴れた空の色の瞳を閉じてみる。

五感の一つを閉ざした途端、これでは罠に掛かった鹿と同じだ、そんな思考が彼女の脳裏を過ぎる。

蝋燭の揺らめく暗がりに、長椅子。

何をされてもおかしくはない。

まさか、あのアルフが自分に欲情するとは思えないけれど。

一瞬浮かんだ映像に、彼女は顔を赤らめる。


「何だ、襲われるとでも思ったか?」


闇の向こうから、アルフレートの愉快気な声。

余裕ばかりの声の表情は相変わらずレナの神経を逆撫でするが、今度は素直に反発せずに目を細めて笑ってみた。



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