世紀末の恋の色は
「襲って欲しいって言ったら、どうするの……?」


吐息混じりのレナの声に、虚を突かれたようにアルフレートが足を止めたのも、一瞬だった。

やがて心底愉快そうな声と共に、アルフレートは蝋燭の光の中に姿を現す。


「襲って欲しいと本気で言っているなら」


ガチャ、とガラスの触れ合う音がして、アルフレートは手に抱えていた物を置く。

しかし、レナの瞳は妖しく煌めく赤い瞳に捕らわれて、それが何かを見ることすら出来ない。

す、とアルフレートの右手がレナの頬のすぐ横にまでのばされる。

長い指がさらさらと金の髪を弄んでいても、レナは身動き一つ取ることが出来ない。

そんな様子に、アルフレートは赤い瞳を細めて囁く。


「本当に襲って欲しいなら、暫く足腰が立たなくなるくらい可愛がってやっても良いがな?」

「……っ」



息を詰めて、レナは頬を熟れた林檎の色に染めながら俯く。

敵わない。

レナはアルフレートに狼を重ねて見る。

自分に絶対の自信を持つ、孤高の狼。

迂闊に触れれば喰われるだけだ、と。


「さて、冗談はこの辺りにして」


アルフレートの右手がレナから遠ざかる。

金縛りが解け、レナは漸くアルフレートが持って来た物に目をやった。

グラスが二つ。

それから、ラベルも何も貼られていないビンに満ちる、ほぼ透明がかった白に若干の濁りが浮いた液体。


「……ワイン?」

「泣き虫にはまだ早いかもしれないがな」


飲め、とレナはグラスを渡される。

酒に疎いレナでは香りを嗅いでもアルコールの刺激しか分からない。

ただ、蝋燭の炎に照らし出されると白色はむしろ蜂蜜色に見えて、そこから連想される味を思い出しながら、レナは少しだけグラスを傾ける。


「あ……」

「俺がわざわざセシルの揃えたワインの中から寝酒に取っておいた一本だからな。美味いだろう」


言いながら、アルフレートは自分のグラスを取り上げる。




.
< 28 / 44 >

この作品をシェア

pagetop