世紀末の恋の色は
「触れてしまったんですか?」

「いや、触れられたと言う方が正しいが」


アルフレートは瞳を閉じる。

胸の内に飛び込んで来た温もり。

それに焦がれてはならない、というのに。


「どうも寝起きでいろいろと血迷っているようだ。そんなことより、教皇庁はあの吸血鬼に対して何らかの行動を起こしたか?」


赤い瞳の質が変わり、セシルも少しばかり表情を険しくする。


「いいえ。狩人たちが動く気配はありません」

「そうか」


アルフレートはサイドテーブルに肘を付き、拳の上にこめかみを乗せる。

赤い瞳はカーテンの向こうの窓に据えられ、まるで敵でも睨み据えているかのように細められた。


「そろそろこちらも動き時か。面倒は避けたいところだが」

「御意、では支度だけは整えておきます」


右手を左胸に当て一礼するセシル。

厳しい表情が削ぎ落とされたアルフレートの声が飛んだ。


「お前もそろそろ眠れ、朝に新たな生を受ける為に」

「僕の時間軸はレナ様とは違うんですけれど……まあ、御意のままに。
 しかしアルフレートはどうするんです?」


セシルの声に、アルフレートの唇は弧月を描く。

声は何処か自嘲じみていて。


「俺はいつも通りさ。まあ今日は羊でも眺めながら飲み直すことにするが」


ちらり、とセシルはソファで眠ったままのレナに目をやり、そしてまた一礼する。


「では失礼します。また明日お目にかかりましょう」


ばたん、扉の閉まる音と共に部屋の中にはアルフレートとレナだけが残される。

ゆらゆら、蝋燭の灯が揺れた。

アルフレートは音もなく立ち上がるとレナの傍らに膝を付き、頬に指を触れる。

やがて一つ彼は唇の端に嘲笑とも取れる笑みを浮かべると、彼女に背を向けた。




Fin.
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