世紀末の恋の色は
少し一人で散歩に出て、考え事がしたい。

食事のあとにレナにそう告げられ、セシルは動きやすいようにと男物の衣服を手渡した。

それから十数分、重い玄関扉が軋む音がして、降り止んだばかりの雪を踏み締める音が遠ざかって行った。

雲の切れ間からは太陽の光が射し、アルフレートもいない屋敷にはセシル一人。


「前って、こんなに静かだったかなあ」


彼の呟きに答えるものはいない。

高い天井は、どんな音すらも吸収して無に帰してしまう。

死のような静寂。

くす、とセシルは苦笑する。


「寂しい、だなんて。僕もまだまだ若いのかな」


けれど、レナは一人で散歩に出たいと言った。

だから、セシルは一人で屋敷に残らざるを得なかった。


「本当に、これじゃあレナ様のことを笑えないですね」


だけどこの好きは、レナ様がアルフレートを見る好きとは違う。

南の海の色の瞳は、五指を開いた右手に落ちていて。

ぎゅ、とそれを握り締めたセシルの顔は、諦めによく似た笑いを浮かべる。


「アルフレートは狡い。僕にはあんなこと言っておいて」


彼はアルフレートがレナを連れて来た夜のことを思い出す。

決してあの娘に触れるな、温もりに触れてしまえば焦がれてしまう。

そう言ったアルフレートは、昨晩レナ様に抱き締められた。

否、だけどアルフレートはレナ様に触れられる前から焦がれていた。

この数日を思い返してみれば、何の疑いもなく浮かび上がってくる。

だって本人が気付いていなくても、アルフレートに助けを求めたのはレナ様だもの。

……だから今回のアルフレートの行動は、ずっとらしくない。


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