世紀末の恋の色は
ざくざくざくざく、雪を踏む足音がリズムよく響く。

レナは何処か遠くからそれを聞いていた。

先ほどから、彼女の頭の中をぐるぐるぐるぐる様々な事象が駆け巡っている。

自分はそもそも犠牲として括られていたのをアルフに助けられて何故か客人の扱いを受けていてそればかりか好きになってしまったかも知れないけれどでも彼のことも良く知らない上に手の届かない人かもしれないしでもそれなら出会ったりもしない訳でどうして出会ったかというと私が犠牲として……。

思考はハツカネズミの滑車のように、いつまでたっても堂々巡り。

一つの結論の回りを無限に駆け続けるだけ。

なぜなら彼女が結論を出そうと思ったところで、


「結局、アルフに訊かなきゃ何も分からない、か」


空を見上げる空色の瞳。

昨日は曇っていたのが、今日は雲の切れ間から太陽が顔を覗かせている。

まるで一条の光明。

だがそれも、彼女のほつれた心を解きほぐしはしない。


「でももしアルフに訊いて、何も教えてくれなかったら」


そうしたらどうしよう、とレナは再び視線を足下に落とす。

夜の間に降り積もった雪が、ずぶずぶと沈んで彼女の身体も心も絡めとる。

このまま埋もれていきそうだ。

どうすれば良いのか、分からない。

立ち止まって考えたところで、自分一人では答えなど出ないのだ。

ふるふると首を振って、彼女は再び歩き出す。

ざく、ざく、ざく、ざく。

そういえば村は結局どうなっているのだろう。

問題から目を逸らして、別の思考を始めてみる。

花嫁たるレナが消えて、吸血鬼は怒っただろう。

ならば、新たな犠牲が捧げられるのか。

それとも血眼になって自分を探しているのか。

可能性としてはこの二つが優位なのだろう。

ざく、ざく、ざく、ざく。

彼女が踏み締める雪は新雪で、何の足跡も見受けられない。



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