世紀末の恋の色は
ざく、ざく、ざく、ざく。

村の様子が気になるな……と、足元を確かめながらレナは思う。

自分を見捨てたとはいえ、生まれ育った村だ。

愛着がないと言ったら嘘になる。

しかし、と彼女は思い返す。

今迂闊に自分が村に近付けば、また柱に括られるだけ。

行ってはいけない、しかし行きたい。

相反する思いに挟まれ、彼女はセシルに連れられて行った屋敷の裏手の温泉を目指している、はずだった。

ざく、ざく、ざく、……ざっ。


「……え?」


突如踏み締める雪の感触が変わり、レナは思わず足を止める。

一歩前までは未踏の新雪だった感触が、踏み固められた板のような感触に変わっていた。


「なん、で?」


一歩、無意識に後ろに下がるレナ。

ざっ。

雪の感触は、新雪ではない。

恐る恐る彼女は背後を振り向く。

背後に、彼女の足跡は残っていなかった。


「う、そ」


繋がらない足跡を見て、レナは愕然とそう呟く。

先程まで自分が歩いて来た痕跡は欠片もない。

それだけではない。

森の雰囲気も、景色も、全てが『人の手の入った森』のものに変わっている。

彼女は、その景色に見覚えがあった。



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