世紀末の恋の色は
……両手を頭の上で縛られ、身体を荒縄でがんじがらめにされた女。
黒い衣服に長い金髪がよく映えるが、瞳の色は顔の上半分を覆った黒い布が隠している。
ぴくりともしない様子からは生きているのかどうかすら定かではなかったが、彼は女が生きていると分かっていた。
その証拠に、彼の気配を感じ取ったのか、女は閉ざされた両目を彼に向ける。
「誰か、いるの?」
声はまだ若い……どこか幼さの抜け切らない少女のもの。
それに不愉快そうに目を細めて、彼は口を開く。
「いるか、と問われればいると答えよう」
その答えに、少女は外気に晒された唇に弧を描く。
「面白い人。貴方が私のお迎え?」
視界も逃走も奪われているのにも関わらず、少女の声色に怯えはない。
「お前を迎えに来た訳ではない。そもそも何がお前を迎えに来るんだ?」
黒髪をかき上げ、彼は問う。
最も今の状況からして、まともなものが少女を迎えに来るとは思えなかった。
「そうよね、まだ日暮れじゃないはずだもの。早く逃げた方が良いわ、面白い人。
私を迎えに来るのは吸血鬼。こんな所にいては、八つ裂きにされてしまうわよ?」
吸血鬼、という単語に、彼は更にルビーレッドの眼を細める。
だが、少女に掛けられる声はあくまで一本調子のままで。