世紀末の恋の色は
「まさか」


ざっ、ざっ。

踏み固められた雪の上を行く足音は、不安定なレナの心にはひどく不吉なものの前兆に聞こえ。

そして彼女は自分の勘が外れていなかったことを知る。

途切れる森。

そこは空き地。

中心に、生木の柱。

生々しい爪の跡。


「い、や」


そこは彼女が括られていた、犠牲の柱の空き地。

様子を見たいと思っていた村はもうほど近くにある。

だが、最早見に行く必要すらなかった。

柱の周りに飢えた目を光らせた狼の群。

否、村人たちの群。

レナだ、花嫁だ、捕らえろ、逃げやがって、お前のせいで、早く括れ…絶望に良く似た瞳で、レナはその場に膝を付く。

吸血鬼の羽音よりも、冬の雷よりも、あまつさえ教会で聞いた吸血鬼の声よりもなお、彼女は今の村人たちの方が恐ろしかった。

レナを差し出した当初の、仮初の情けすらかなぐり捨てた彼らは、人の形をした獣のようだった。

怒声は咆哮、ぎらつく瞳、むき出しにされた歯は牙。

無抵抗のまま引きずられながら、レナは不意にアルフレートの言葉を思い出す。

夜眠れなくなった人間は、徐々に理性を失い人ではなくなっていくと。

おそらく村は、吸血鬼に安息の夜を全て奪われたのだ。

恐怖と諦念と同情の入り交じったような表情で、彼女は空を見上げる。

いつの間にか、雲は吹き散らされて晴れた空には染み一つなく蒼い。

だが、その蒼より蒼いはずのレナの瞳は、陽の光が差し込んでも暗いままだった。



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