世紀末の恋の色は
「何故吸血鬼がお前を迎えに来る? お前は人間だろう」


数秒の沈黙が場を支配する。

おそらく少女の布の下の瞳は面食らったように見開かれていたのだろう。

ややあって、華奢な肩が揺れた。


「本当に、面白い人……。
 吸血鬼が人間を迎えに来るのなんて、当たり前じゃない。
 人の血を吸わないで、どうやって彼らが生きて行くの?」


少女の言葉に彼は暫く無言だったが、やがて嫌悪感を含んだ調子で吐き捨てる。


「犠牲の羊、か」

「花嫁って言われてるわ。
 実態は憐れな羊と何の違いもないけれど」


くす、と少女は笑う。

否、嘲笑う。

己の身と、己を差し出した者達を。

そして、花嫁、という呼称を。


「……お前は、それで良いのか?」


何処か間の抜けた問い。


「良い訳、ないでしょう。
 弄ばれて血を吸われて慰み物にされて、そしていつかぼろ切れみたいに捨てられて終わり!」

蓋をしてあったような激情が迸り出る。

だが、それも刹那。

次の瞬間には、彼女は雪よりも冷たい声色を取り戻していた。


「 ……私は、そうなるために生きて来た訳じゃない」



沈痛な言葉に耐え兼ねたように、赤の両目を閉じられる。

黙したままの彼を顧みず、少女は嘲りの声色を取り戻しかけた。

それで漸く彼は気付く。

恐怖どころか余裕の表情をしていたのは、全てを諦め嘲っていたからだ、と。
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