世紀末の恋の色は
「……私が、少し金持ちの家の娘だからいけないんだって。
 畑仕事も水仕事もろくにしたことがなければ、綺麗な身体をしているだろうからって。
 笑っちゃうわ、少しばかり裕福と言ったって、そんな余裕がなかったことぐらい知ってるだろうに」


それなのに何故自分なんだ、とまで少女は言わない。

理由は分かり切っていた。

娘を犠牲にする変わりに金なり土地なり代償を差し出せ、とでも母が言ったのだろう。

誰も彼も自分や娘の命は惜しい。

だから、村を守るために体のいい花嫁が差し出されるのだ。

……本人の意思など一顧もしないで。


「だったら、私に出来ることなんて一つだけでしょう?」


恐怖を悟らせないで、ずっと笑っていること。

憐れみと安堵の表情で自分を見る村人たちを嘲笑い続けること。

でも。


「それはお前の本心か?」


また、間の抜けた問い。

答えなど、分かり切っているだろうに。


「どうしてそんなことばかり……惨めな思いにさせたいだけなら、いっそ殺してよ」


そうすればこれ以上、この身を辱められずに済む。

そんな少女の心情を見透かして、尚も彼は静かに問う。


「それがお前の本当の願いか?」

「そんなはずないでしょう!」


叫び。

身体が拘束されていなければ、恐らく少女は激しい動作を交えただろう。



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