君だけに送るエール【短編】
「……話せるもんだなぁ」



近況を話題にしたしばらくの立ち話の後、一年の教室に戻って行く長谷部を見ながら呟いた言葉に、隣にいた俊介が首を傾げる。


「彼ね、初恋の相手だったりするのですよ」

目玉をかっ開きまぁ!とでも言いたげな俊介。
目玉落ちるよ。

「失恋だったけれどね」

更に眉間を吊り上げたように悲愴な顔をする俊介。

っていうかこの無言リアクションなんなの。
私赤裸々独白する恥ずかしい人みたいじゃん。


とりあえず歩き出すと、「元気出しなよ!諱花!」とか変な解釈をされた。
引きずってるわけじゃない。

少なくとも、今は。


長谷部への想いが叶わないとわかった時はもうこの世の終わりみたいな感じだった。
笑顔で話してても苦しくて、長谷部の笑顔を見る度、胸が刺されるような気がしてた。

特別、劇的な恋をしていたわけではない。

実際高校に入ってから気になる人が出来たりして、あぁ恋愛って案外そんなもんなんだなって思ったくらい。


だけど受験を言い訳に後輩達、主に長谷部と顔を合わせないようになってから、今まで特に会うようなこともなかった。


あの時期、四六時中私の胸に居座っていた痛みなんて忘れてしまったように、ついさきほどの私は彼と会った最初の頃のようになんの屈託もなく笑う事が出来ていたようなのだ。


私も、成長したと言う事だろうか…?
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