みんなのせかい
『しばらくツトム君には入院してもらおうと思っています。

大きなケガはなくかすり傷程度の負傷だけど頭を打っているみたいだからね。

頭は油断できないから少し様子をみさせてもらいます。』

彼は穏やかな声で寝かされているツトムに語りかけた。

『はずせ。』

彼の登場で現実感が戻ったのかツトムが地獄の底の捕らわれ人の声で言った。

ツトムの視線は穏やかな医師のそれと正反対に理不尽な怒りに満ちていた。

自分の知らぬ間にベッドの上に両手・両足を固定し拘束されている事実。

白い部屋の耳には聞こえない何もかも否定する静かな金切り声。

それらに対する怒りをツトムは目の前に現れた医師に短絡的に向けていた。

ツトムにとって怒りをぶつける対象が怒りの原因である必要はなかった。

ただ目の前にあるものに怒りをぶつける。

それがツトムだった。

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