【天使の片翼】
「カルレイン様」
二人きりになった部屋で、リリティスは口を開いた。
「本当に、ファラを、ホウト国へ行かせるおつもりですか?」
リリティスの不安げな表情を見て、カナン国王--カルレインは、またしても心が揺れる。
この愛らしい妻が、憂(うれ)えた姿など、決して見たくはない。
「心配か?」
こくり、とリリティスは頷いた。
「ホウト国の王には、何人もの妃がいて、百人を超すお子様がいらっしゃるとか。
どこかへ嫁がせるにしても、もっと別に、相応しい相手がおりますわ」
「例えば、ソラン、とか?」
カルレインの言葉に、リリティスの蒼い瞳が、大きく開かれる。
「ご存知でしたの?」
「まあな。
ソランには、ファラの護衛として、ホウト国まで行ってもらう」
なんて、人の悪い方なのでしょう、と言って、リリティスは、軽くため息をついた。
「ソランは、ファラの事を、好いているのですよ?」
普通、この年ならば、女の子の方が、精神的成長は早いはずなのだが。
どうも、自分の娘は、かなり奥手らしい。
いまだに、剣を持って、兄や弟相手に、遊んでいる。
幼馴染が自分に送る、熱いまなざしに気づくこともなく。