【天使の片翼】
「子供じゃない、か」
自室に戻る途次、シドは、空を眺めながら、ぼそりとつぶやいた。
子どもの頃は、自分も、そう思っていた。
体も成長して、力も強くなり。
一人前に、恋も覚えて・・・。
怖いものなど、何もないように思えたあの頃。
世の中が、正義ばかりではないと、うすうすわかってはいたが、
悪を知らなくても、生きていけると、そう信じて疑わなかった遠い過去。
ふと、ファラの顔が夜空に浮かぶ。
自分の言葉一つに、初々しく反応する少女。
なぜか、ファラと相対すると、昔のまぶしすぎる過去ばかりが、
まざまざと、胸中に浮かび上がってくる。
・・さて、次はどう打ってでるか。
いつの間にか、ファラの反応を楽しみにしている自分に気づいて、
シドは、顔を引き締めた。