【天使の片翼】
そのとたん、まるでそのことに反発するかのように、左肩に痺れを覚え、
シドは思わず右手で肩を押さえた。
あの時の傷は、ほとんどふさがりかけている。
深く切られず、表面を大きく裂かれたので、
出血は多かったが、思いのほか、治りが早い。
もしも、運命を作り出す神がいるとしたら、そいつは、実に皮肉屋に違いない。
自分が暗殺しようとした少女に、逆に命を救われ、
今また、こんな風に、傷の具合を心配までされるのだ。
・・この傷が、誰の手によって付けられたものか、知らないのか?
ソランの手によってつけられたそれを眺めて、シドはあざ笑うように醜く口をゆがめた。
自分が宿に侵入した事を、証拠がないからと、いまだにソランは告げていないのだろうか。
それとも、怖がらせないように、隠しているのか?
後者はありえないな。
シドは思いながら、自分があざ笑っているのが、ソランでもファラでもなく、
自分自身であるような気がした。
視界の左端から、流れ落ちる小さな星が、目に入る。
・・イリア。
シドは、過去への邂逅(かいこう)に、そっと瞼を下ろした。