【天使の片翼】
同じ星空の下、王宮のはずれで、少女は一人たたずんでいた。
わずかな灯りを頼りに、両方の腕には、厚い皮の手袋をしている。
それは、手袋というには少しばかり長く、肩までをすっかり覆うような造りをしていた。
「ジル」
少女の声に、暗闇の中で、金色に光る二つの物体が、ぎょろりと動く。
それが、目玉である事を、少女は、よくわかっていた。
クルルゥと喉を鳴らすようなかわいらしい声で、甘えたように鳴いていたが、
うっすらと灯りに照らされたその姿は、相当に大きく、
翼を広げれば、少女の身長くらいありそうなほど、巨大な鳥だ。
その姿に恐れることもなく、少女は、胸に閉まってあった羊皮紙を取り出すと、
手際よく、その鳥の足元へと結びつけた。
「お願いね」
少女が傍を離れると、たたんでいた翼を一度に広げ、
音もなく、瞬く間に、居場所を変える。
・・無事に、カナンまで飛んでいってね。
小さな灯りを供にして、少女は、もと来た道を歩き始めた。