【天使の片翼】
その日、ホウト国の城の内外は、一年中で一番、というよりも、
この国始まって以来といえるほど、活気づいていた。
雲のほとんど見えない、からりと晴れた天気は、その象徴のようだ。
齢60となるホウト国王ルビドのために、各地から祝いの品が届けられ、
道を歩く野良猫でさえ、どこかうきうきとしているように見える。
ホウト国の中だけにとどまらず、貿易関係のある、さまざまな国からも、
祝いを述べるために、たくさんの使者が贈り物を手に、押し寄せていた。
もちろん、ファラの祖国、カナンからも。
「ねぇ、まだ来ないのかしら」
ファラは、そわそわとして、部屋中を歩き回る。
まるで、迷子になった2、3歳の子供のようだ。
「ファラ様。落ち着いてください。
みっともないですよ」
ソランの堅苦しい言葉に、ファラは、もうっ!と言って立ち上がった。