【天使の片翼】
腰に手を当て、ソランの目の前に立つ。
侍女たちは、城の準備で、目の回るほど忙しいらしく、部屋にはソランと二人きりだ。
「私と二人のときは、その敬語やめてって言ったでしょ?」
周りに人がいるときは、ソランが自分を姫として扱うのは、仕方ないとわかっている。
それでも、今は、誰もいないのだ。
そんな時にまで、改まった態度を取られると、なんだか悲しくなってしまう。
突然、ソランとの間に、軽く跳び越せない広い川が、できてしまったような気がして。
一見すると、怒っているようなファラの声音だが、
その表情が、しおれた花のように、くしゅんとしぼんだのを、ソランは見逃さなかった。
本当は、たとえ二人きりでも、この先の事を考えれば、主従関係は崩さぬ方がいいのだろうが。
しばらくの沈黙ののち、ソランは、軽く息をついだ。
「心配しなくても、カルレイン様は、もうすぐ到着される。
少しは、成長したってところを見せないと、笑われるぞ」
ソランは、ファラの望みどおり、“幼馴染み”を演じた。
でないと、彼女の大きな瞳から、何かが零れ落ちそうな予感がする。
・・気が強いくせに、涙もろいからな、こいつ。