【天使の片翼】
酒盛りの手をとめた王も、すぐにそちらへ目を移す。
背の高い、一見やさしげな面立ちをした男が、舞台へと歩いてくる。
20代後半といったところだろうか。
洗練された物腰は、たんなる貴族の男のようにも見えるが、
その、隙のない足の運びに、エリシオンは、一瞬で男が凄腕の猛者であるとみてとった。
『きゃ~!シド様~!』
などと、今までの試合では、あまり聞きなれなかった無数の女性の声があがる。
シド。
どこかで聞いたことのある名だと考え、
エリシオンは、それが、この国に潜ませている密偵の報告書にあったものだと思い当たった。
・・確か、ファラの相手--ソード王子の護衛をしている男、だったな。
シドは、相手の騎士とともに中央に並ぶと、ルビドに深々と一礼した。
あの者は、なかなか腕が立つのですよ、というルビドの声に、エリシオンはそのようですね、と答える。