【天使の片翼】
・・勘違いか?
いや、そんなはずはない。
確かに感じた、裂ぱくの気迫。
場所から考えれば、今から対戦する二人のうちのどちらかしか、ありえない。
だが、今から試合を行うというのに、自分に対して敵意をむけたりするだろうか。
ひょっとしたら、それは、対戦相手に対して向けられたものだったのかもしれない。
ただの御前試合に、そこまでの殺気が必要なのかは、はなはだ疑問ではあるが。
そう考えをめぐらせて、エリシオンは、それが自分の勘違いであると信じたいのだと悟った。
剣の腕は良くても、平和なカナンにおいて、戦というものを経験したことのないエリシオンにとって、
それは、あまりにも強烈で、すでに切りつけられたと同意義なほどの、生々しい体験であった。
しばらくそのまま固まっていたが、剣をはいていない腰に手を当てている自分に気づいて、
慌てて椅子に座りなおす。
剣は、友好の証をみせるために、この場には持ち合わせていない。
照りつける太陽のもとで、エリシオンは、一人、真冬の冷気を浴びたように青白い顔をしていた。