【天使の片翼】
今すぐ駆け寄って、エリシオンと話してみたいが、
残念ながら、今は姫君を演じる時間だ。
自分も試合に出たかったな、なんて、姫とは程遠いことを考えてはいたが、
頭の中までは、誰にも見られないから、遠慮する必要はない。
ファラは、額の汗を拭うと、ソードが自分と同じようにエリシオンを見ているのが目に入り、首をひねった。
瞳は、睨みつけるように、一心にエリシオンに向けられているのに、
その表情は、とても苦しそうな、今にも泣き崩れそうな、複雑な顔で。
「ソード王子?どうかしました?」
余計なことかと迷いながらも、おせっかいなファラは、無視できず、話しかけた。
「う、うるさい!なんでもない!」
案の定、冷たくあしらわれたが、たった一つ違うのは。
『ソード王子様?』
一瞬、周りに控える侍女たちが、驚いたような視線を向ける。
その意味に気づき、ソードは、はっとして、内心で舌打ちをした。
こんな人前で、丁寧な言葉遣いを忘れ、素の自分をみせるなんて。
ありえない醜態をさらしてしまった。
そんな自分自身に、ソードはさらに戸惑う。