【天使の片翼】
それを知ってか知らずか、ファラは、すっくと席を立つと、
ソードの椅子の腰掛に両手を置き、ひょい、とソードの顔を覗き込んだ。
今にも鼻と鼻が、ぶつかりそうな距離。
「なんか、泣きそうな顔してるよ?
どこか、具合悪いんじゃないの?」
ソードにつられて、ファラも普段の口調で話しかける。
気のせいかと思ったが、ソードの目は、赤く充血していて、なんだか潤んでいるように見える。
いきなりの近すぎる距離に、ソードは、ますます混乱し、体を硬くした。
この女、一体何を考えているのか。
自分が、さんざん馬鹿にしている事を、わかってないのだろうか。
そんなソードの態度にはかまいもせず、熱でもあるのかと、ファラがソードの額に手をやろうとしたとき、
場内が、一斉にわなないて振動した。
「そこまで!」
審判を務める兵士が、試合の終了を告げると、人々から拍手が沸き起こる。
どうやら、試合開始から瞬きをする間もなく、決着が付いたらしい。