【天使の片翼】
「ファラ!なぜお前がここにいる!」
思わず地が出てしまったことにはっとして、ソードは、右手で口を塞ぐと、
小さな頭を回転させ、周囲をきょろきょろと見回した。
まるで、宮殿に忍び入った盗賊のようだ。
ファラ以外の姿がない事に納得すると、吊り上った眉を下ろし、肩の力を抜く。
「心配しなくても平気よ。
皆、御前試合を見に行ったまま、誰も戻ってないから」
ソードの焦った理由を察して、ファラはくすりと笑った。
どうしてそんなにも、周囲の目を気にして、良い王子を演じなくてはならないのだろう。
地を出しているソードのほうが、年相応でかわいい気がするのに。
ファラは、弟のユリレインと同じ年のソードが、
調子を崩して、次々に失態を見せたことに、親近感を覚えた。
嫌なやつだと思っていたけど、それは、ソードの一面を見ていただけで、
ひょっとしたら、そうでもないのかもしれない。
ユリレインだって、いつも偉そうにつかかってくるけど、
本当は、優しくて、思いやりのある弟だ。
突然、年上の妻ができるなんていわれれば、それは反抗もするだろう。
ファラは、なんとなくソードに少しだけ近づけた気がして、気分が沸き立った。