【天使の片翼】
「何言ってるのよ!あなた一人を置いていけないでしょ!」
ファラが、扇ぐ手をとめ大きな声を出したので、
ソードは、あわせるつもりのなかった瞳を全開にして、体をファラに向けた。
空中の一点で、二人の視線が見事に交差する。
今まで誰も、自分を一人にできないなどと、主張した人間はいない。
侍女たちは、表向き、自分の身を案じることはあっても、
それは、たんにその場で取るべき、一連の決まった行動に過ぎない。
自分が死ねば、職を失う。病気になれば、叱責をかう。
心配なのは、ソードの身ではなく己の身だ。
そう考えて、ソードは、ファラが自分を心配する理由に思い当たった。
そうか。自分が死ねば、この女は、結婚相手を失うんだった。
ふいに、ソードは、気落ちしている自分に気づき、自嘲した。
気落ちするということは、自分がこの女に、何かを期待していたみたいではないか。
・・そんなわけがない。
それでも、ファラの視線に囚われたように、ソードは目をそらせなかった。