【天使の片翼】
その時、注意していなければ聞きのがしそうなほどの小さな音の波が、二人の耳を襲った。
「あ、試合、決着が付いたのかしら。
シドが優勝するといいわね」
自分の護衛が優勝すれば、主としては嬉しいはずだ。
深い考えもなく、沈黙の変わりに口にしたが、
「優勝するわけないだろ」
ソードは、まるで、明日の天気が何かを言い当てるように、断言した。
「どうして?シドよりも強い人が、そんなに大勢いるの?」
ソードは、ふんと鼻を鳴らすと、説明するのもばかばかしいと言う風にファラを見る。
まるで、猿を眺めるような、見下した目つきで。
「お前、本当に無知だな」
「何が?」
「これは、王を祝うための御前試合だぞ。
順位なんぞ、最初から決まってる。シドは10位だ」
「へっ?」
鼻からぬけたような声を出したファラに、シドはあきれ返った。