【天使の片翼】
次の試合が始まったのだろう。遠くから、また、歓声らしき音が聞こえる。
会場はかなり遠い場所にあるのに、ここまで物音が届くということは、
その場にいたら、相当の迫力なのに違いない。
喧騒から隔離された二人に、静かな時間が、緩やかに流れる。
ソードが笑顔で皮肉を言うのは、いつものことなのに、
なぜかファラは、彼が自分に“いつも”と違う、本当の彼の姿を見せているような気がした。
綺麗な微笑で、自分を王女と呼び、上流階級の優雅な会話をしているときよりも、
直接的な悪口を言うソードを、ずっと近くに感じて、ファラは無意識に微笑んだ。
今なら、自然にお互いの事を話し合える。
不思議と何の根拠もなく、だが、確信めいたものがファラの頭を支配した。
いつの間にか、お互いを呼び捨てあい、本音をさらけ出している今なら。
あまりにも、にたにたと笑っているファラを見て、ソードは、逆に心配になった。
・・こいつ、暑さで頭がやられたんじゃないのか?