【天使の片翼】
「ま、いっか。いんちきの試合なんかして、何が楽しいのか知らないけど」
誰に言うでもなく、ぶつぶつとつぶやきながら、ファラは、扇を反対の手に持ち替えた。
ふ~、暑いわね、などと言いながら、2、3回自分を扇ぐと、
すぐにソードの体をゆっくりと扇ぎ始める。
「それにしても、あんたの侍女たちは何してるのかしらね。
冷たい飲み物を用意します、って言ってたのに、やけに遅いわ」
部屋の入り口に目をやるが、そこが開く気配どころか、足音さえない。
ソードにも飲ませたいが、自分の喉も、限界が近い。
「来ないよ」
ふいに、ソードが、さっきまでと違う低い声をだした。
声変わりをしていない彼が、精一杯出せる、低い声。
「え?」
小さすぎて、ファラは聞き返すように、耳を突き出す。
「誰も、来やしないさ」
ソードは、ごろりと転がってファラに背中を向けると、瞳を閉じた。
・・来るわけがない。