【天使の片翼】

太陽は少しずつ傾いてはいたが、勢力を衰えることなく、広い天空で自己主張を続けている。

そして、陽が沈まぬ限り、さえぎるもののないこの建物は、

もはや、恩恵とは呼べぬほどの熱を、甘受し続ける運命にある。


「ソード。体に悪いから、飲んでよ。冷たくておいしいよ」


ソードは、壁を向いて横になったまま、一言も口を聞かない。



・・ソード。



汲んできた冷たい水を持ち、ファラは、丸くなったソードの背に語りかける。


まさかとは思ったが、ソードの言葉は、まったく真実そのものだった。

どうしても、喉の渇きを押さえきれなくなったファラは、

侍女を探して、厨房をうろつき、そこにも姿がないので、一度、試合会場に戻ってみた。


そこには、黄色い声援を送る者、お互いに談笑する者、別の王族や貴族たちにお酌をする者、

とにかく、さきほどまで、かいがいしくソードの世話をやいていた者が、

皆、ことごとくうちそろっていたのだ。


倒れたソードのことなど、気にする様子もなく。

まるで、彼が、初めから存在すらしていないかのように。



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