【天使の片翼】
肩で息をしながら体を起こし、ソードは、真っ赤な顔で怒鳴り散らす。
すばやく身を乗り出して、ファラの持っていた椀を、手の甲で強くはじくと、
それは、勢いよく空中を飛んでから、派手な音をたてて、床に散らばった。
「な、何するのよ!」
せっかく汲んできた水が、あっというまに床に広がって、楕円を形作る。
この国では、水は貴重品だと教えられているはずなのに。
たとえ自分のしたことが気に入らないにしても、これは、ひどすぎる。
驚いたファラが、非難めいた口をきくと、ソードはますます怒りの形相を見せた。
「みんな、僕が死ねばいいと、思ってるんだ。
どうせ、お前もそうだろう!」
次の瞬間。
パチン、という音が、部屋いっぱいに響いて、ソードは左頬にひどい痺れを感じた。
物心ついた頃から、当たり前のように感じていた慣れきった、その感触。
と同時に、もう何年も、感じたことのなかった、忘れかけていた感触。
震える手で、自分の左頬に触れる。