【天使の片翼】
何が起きたかわからず、いや、そうではなく、感情が事実を肯定できず。
ありえない。
ホウト国の王子である自分の頬を、ひっぱたくなんて。
じんわりと広がる痛みは、しかし、これが夢でも幻でもないことをはっきりとつきつけていて、
頬を押さえたまま、ソードは、目の前にいるファラを、呆然と見つめた。
瞳をあわせたとたん、ファラの澄んだ瞳に捕らえられる。
まるで、光に吸い寄せられる蛾にでもなったように、ソードは目をそらすことができなくなった。
吸い込まれるほど大きなその瞳には、透明の膜が、じんわりとあふれ出してきて。
「ソードの馬鹿!どうしてそんなこと言うのよ!」
口にしたとたん、ファラの瞳から零れ落ちた雫が、彼女の衣に次々としみを作る。
ファラの涙を見たとたん、なぜだか叩かれた頬が、じんじんと、余計に熱くうずいて。
ソードは、どこかが、ずきん、と痛みを訴えた。
それは、頬でも頭でもなく、でも、確かに痛みを感じる場所。