【天使の片翼】

「言葉には、力が宿るんだよ。

死ねばいいなんて、そんなこと、絶対に言ったらだめなんだから」


惜しげもなく、ファラは次々に涙をこぼす。

初めて見るファラの涙が、ソードには、なぜだか宝石のように輝いて見えた。


「・・・・・・」


宮殿にいる大勢の王族や貴族や、侍女相手になら、

何も考えなくてもいくらでも気の利いた、やさしい言葉が、舌を滑り降りてくるのに。


ソードは、目の前で泣き出したファラに、なんと声をかけてよいのか、わからなかった。

頭の中が真っ白で、いままで蓄えていた型どおりの慰めの言葉が、引き出しから出てこない。

かけた覚えのない鍵が、かかったまま壊れてしまったかのようだ。


「みず・・・」


やっとのことで、目の前にある物質の名前を口にする。


「飲む」


幼子のように、単語の切れ端しか言葉にできないが、

ファラは、はっとしたように、反応した。






< 176 / 477 >

この作品をシェア

pagetop