【天使の片翼】
ねぇ、兄様、というファラの声で、エリシオンは我に返った。
「ああ、ごめん。なんだっけ?」
「もう、兄様ったら、聞いてなかったの?
ソランの試合はどうだったの?と聞いたのよ。
私、見れなかったから」
試合で優勝したのは、ソードの予想通り王付きの兵士だったが、
ソランは、2位にくいこんだ。
その様子を聞きたくて、なんどもソランに尋ねたが、彼はいっこうに教えてくれない。
照れた風でもないし、秘密主義では、なおさらないはずなのだが。
「あぁ、そういえば、ソランは2位だったね。
うん、なかなかいい腕だったよ。
もともと、彼の父であるマーズレンは、父上と同じノルバス国出身の兵士だし。
君も知っての通り、ノルバスは武芸に秀でた人間が多いからね。
ソランも幼い頃から、剣や弓を扱えるよう、厳しく育てられているから」
まぁ、よくできたお芝居だったよ、という言葉をお茶と一緒に飲み下す。
ソランも、与えられた役割をこなして、ずいぶんと大人になったものだと、
エリシオンはひどく感心した。
最初から、結果の決められた試合を、文句一つ言わず、たんたんと演じきったのだから。