【天使の片翼】

カナンでは見たことのない珍しい黄色い果物に、エリシオンはそっと手を伸ばす。


「これはまた、甘いのにすっぱいんだね。とてもおいしい」


嘘をつくのは、どうも苦手だ。

政治を行うものが、それではだめなのだろうが。


エリシオンが御前試合の話題を変えると、ファラも思い出したように再び果物をかじり始めた。


「そういえば、ソード王子は、もう大丈夫なのかい?」


「うん。暑さのせいで、倒れただけみたい。

頭を冷やして水分を取って一晩眠ったら、次の日には回復したって」


心配したファラは、次の日もソードの見舞いに行った。

そこには、いつものように完璧な天使を演じるソードの姿があって。


ファラは、心の底から安堵した。



・・なんとなく、態度がおかしかったような気もするけど。

気のせいよね。



視線を合わせようとしないソードの額に無理やり触れたら、

驚いたような顔をして、手をはらわれた。



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