【天使の片翼】
窓を開けてほしいというリリティスの要望で、侍女のルシルは、窓をいっぱいに開け放した。
とたんに、花の香りが、部屋いっぱいに広がる。
階段の上り下りがあっては体に悪いと、リリティスは昨日、強制的に部屋を変えられていた。
もちろん、心配性かつ強引な夫の命令によって。
空は、木々と建物の影になって切り取られたようにしか見えず、
たくさんの白い雲は、山のように高くそびえたっているようだ。
以前は、部屋の露台から眺める景色が楽しみだったが、
移ってきた部屋は一階なので、露台はない。
そのかわりに、中庭に面していて、たくさんの植物が心を和ませてくれる。
窓を開けば、そこからすぐ庭に下りられるようになっているのは、
リリティスが、そうでなければ部屋を替わりたくないと懇願したからだ。
そう言わなければ、適度という言葉を知らないカルレインのことだ。
本当に、部屋から一歩も出るなと言い出しかねない。