【天使の片翼】
驚くファラの声が、レリーにはどこか遠くの世界の音に聞こえた。
そんなたいしたもんじゃない、とか、
つけてみろ、などというソードの声が聞こえたような気もした。
自分の立っている足元が、深い流砂に飲み込まれていくような感覚に襲われる。
俯くと、自分の着ている衣が目に入った。
侍女の着る、薄い黄色の衣。
今まで好きだったその色が、急に地味で惨めなものに思えてくる。
部屋の扉に足をかけたとき、ほんの一瞬だけ、振り返った。
ソードの照れたように笑った顔が、切り取られた風景画のように、レリーの視界に入る。
ゆっくりと閉まる扉が、その絵をじょじょに狭め、ついには、剥ぎ取ってしまった。
パタン、という乾燥した音が、むなしく響く。
仕方ない。
自分はただの、侍女だ。
壁に背中を預けると、衣のところどころに、ちぐはぐな水玉模様ができていく。
「レリー!何してるの?」
先輩の侍女に名前を呼ばれ、レリーは、手の甲で瞳を拭うと、はい、と短く返事をした--。