【天使の片翼】
シドは、カリプタスの庇護を離れて歩き出す。
暗闇になれた瞳は、容易に外の明るさを受け入れず、シドは目がくらんでよろめいた。
・・しょせん、影を歩く者は、光の世界には住めないのかもな。
ふと太陽の下を堂々と駆け巡っていそうな、どこかの王女の事を思い出して、
シドは苦笑いした。
あの天真爛漫な少女は、罠にかけられたとき、自分をどういう目で見るのだろう。
罵倒して顔をゆがめるのか、それとも、歯牙にもかけず、見下すのか。
どちらにしても、もう二度と他人を信じようなどと思うまい。
それとも、それでもなお、奇麗事を言って、回避を試みるのか。
自分がどちらを期待しているのか、シドは、考えないようにした。
考えれば、嫌な答えにたどり着きそうな気がする。
期待をして、あっさり裏切られるのは、ごめんだ。
・・イリア。もうすぐ敵をとってやるぞ。待っていろよ。
シドは、すでに天に昇った少女の姿を探すように、空を見上げる。
「これは、ひょっとして雨が降るかも知れんな」
遠くに豆粒ほどの黒い雲を見つけて、シドはつぶやいた--。