【天使の片翼】
露台の扉を開けると、刺すような冷たい空気が、一気に流れ込んでくる。
「ずいぶん、遅かったですね」
暗闇から、突如男が姿を見せたが、予想していたのか、少女は表情を変えなかった。
「味をごまかそうと思って、お茶を熱めに入れたら、
なかなか全部飲んでくれなくて」
厚手の衣を何枚も重ね着して、防寒対策をした男は、足音もさせず部屋の中へと忍び入ると、
暗闇に包まれた辺りを窺ってから、すぐに扉を閉めた。
男は部屋の机にうつぶせるもう一人の少女を見ると、妖艶に笑う。
「まぁ、いいでしょう。すぐに、運び出します。
君は、この場を片付けて、証拠が残らないように、ね」
こくり、と頷いたが、少女はすぐには動かない。
「あ、あの!本当に、ひどいことはしないのですよね?
カナン国の王を脅かして、ソード様をお守りするだけですよね」
すがりつくような少女の瞳に、男はにやりと笑うと、もちろんです、と答えた。
「君のために、殺してもいいですけど。邪魔でしょう?」
ねぇ、レリー?と男に囁かれ、レリーは、さっと顔色を変えた--。