【天使の片翼】
緑に囲まれた森海城では、その美しいたたずまいに似合わず、
このところ、物々しい警戒態勢がしかれている。
そのもっとも警護の厳しい場所で、リリティスは久しぶりに帰った息子と対面していた。
「ただいま戻りました。具合はいかがですか?母上」
すでに、道中届いた知らせで、何が起きていたかをエリシオンは知っている。
「お帰りなさい。無事に戻ってくれてよかったわ。
私は大丈夫です。心配してくれてありがとう」
刺繍をしていた手を休めて、リリティスは穏やかに微笑んだ。
わずかにこけた頬を除けば、いたって健康そうに見える。
無事だと聞いても、実際に姿を見るまでは気が気ではなかった。
エリシオンは、リリティスの顔を見て、やっと胸をなでおろした。
「父上が留守の間は、私が母上をお守りしますから、ご安心ください」
自分が留守の間に曲者が忍び込み、リリティスを襲ったという話を聞いて、
エリシオンは身が縮む思いだった。
「頼りにしてますね。でも・・・」
リリティスは瞳を伏せ、美しい野茨(のいばら)の刺繍に視線を落とす。